美容整形 しわの道筋

国民の医療を見る目が厳しくなっている。
三時間待っての三分間診療、薬づけ、検査づけ医療と言われて久しいが、昨今はさらにインフォームド・コンセントの不足や医療の質に対する不満もでている。
一方、医療費は毎年歯止めもなく高騰し続けていると一般に信じられている。
ところが、諸外国から眺めると、日本の医療は非常に優れているのである。
日本の〇歳平均余命や乳児死亡率などの保健指標は世界の最高水準にある。
こうした成果は国民の問で所得格差が少ないことや、教育水準が全体的に高いことに負う点が大きいにせよ、医療自体の果たしてきた役割も無視できない。
また、国民全員が医療保険に加入しており、保険証一枚があれば費用のことをあまり気にしなくてもどこの医療後閑でも受診できる。
一方、医師は基本的に自由に診療することができ、出来高払い制度に基づいて診療した内容に応じて収入が増えるようになっている。
そして何よりも、日本では高騰していると信じられている医療費は、むしろ世界的には低い水準にあることで逆にここでいう「医療費」とは、患者が病院の窓口で払うお金でなく、国全体として医療に使っているお金のことである。
「医療費」に含まれる内容は国によってそれぞれ異なるが、同じ基準にできるだけ揃えて計算したOECD(経済協力開発機構)の統計によると、見られるように日本は一人当りの金額(為替よりも貨幣の実際の価値を反映する購買力平価レートで換算)からみても、また対GDP(国内総生産)比でみた場合でも、主要先進諸国の中ではイギリスに次いで低い値である。
さらにOECDの統計に含まれていない医師への謝礼等も考慮し、経済企画庁の国民経済計算に基づいて独自に推計した場合でも依然として低い水準である(詳細は次頁表Iを参照)。
以上のように、低い医療費、優れた保健指標、国民皆保険によって特徴づけられる日本の状態と対照的なのがアメリカである。
アメリカの医療費は世界一高く、一人当りの金額および対GDP比からみて日本の二倍にも達するにもかかわらず、保健指標は先進諸国の中では中位以下であり、また国民の八人に一人は医療保険に加入できない状態である。
そのうえ、医療費を抑制するために、患者は受診できる医療機関が保険者によって限定されており、医師は患者を入院させる前に保険者から許可を得なければならないなどさまざまな制約が設けられている。
その結果、アメリカの医学は最高であっても、アメリカの医療は先進国の中では最低であるかもしれない。
厚生省の公式な日本の医療費推計。
および保健所等の公衆衛生活動費等)。
ただし、(A)に含まれる公費負担医療は除く。
によるアメリカの医療費推計には含まれるが、他の国では通常除外されている項目である。
なお、アメリカの医療費は国民経済計算ではなく、HCFA(医療財政庁)より直接データを得ている点で特異的である。
医師への謝礼は、高めに計算し、差額ベッドに入院した場合は大学病院であれば30万円、それ以外の病院では10万円、差額ベッド以外の場合は3万円、それぞれ全員が支払ったものとして推計。
「お世話料は二木氏の行った調査による(『九〇年代の医療と診療報酬』勤草書房、1992)。
実は本書は、このように苦闘するアメリカの医療に対して、医療政策の観点から日本の制度を分かりやすく紹介し、改革するうえでのヒントをアメリカ国民に与える目的でもともと企画された。
その際、とくに焦点を置いたのは日本で医療費の抑制を可能にした構造的要因の解明である。
というのは、日本においても一九七〇年代にはアメリカと同じように医療費が高騰していたが、一九八〇年代に実施された一連の政策的対応によって医療費の伸びを抑制することができたと考えられるからである。
なお、一九九〇年代となってから、医療費の対GDP比は再び増加に転じたが、それは経済成長が鈍化する中で、医療費のほうは高齢化等により同じ割合で増加を続けているためであり、過去における高騰とは性質が異なる。
執筆に当たったのは、アメリカ人で日本の研究をしてきた政治学者のジョン・キャンベルと、日本人で医療の研究をしてきた医師の池上直己というユニークなコンビであった。
二人の視点は当然ながら異なったが、互いに補完し合い、また両者がそれぞれが分担した章の草稿を何回も読み合わせるうちに共通した問題認識を持つようになった。
そして、英語版についての最終責任をキャンベルが、日本語版については池上がとることにした。
日本語版である本書は、日本の読者が持っているであろう関心や問題意識に合わせて原文を大幅に書き直している。
そして、日本の医療制度を理解するだけでも大変なので、アメリカにおける状況との対比はほとんど行っていない。
しかしながら、原文はもともと予備知識のないアメリカの読者を想定して書いたので、医療問題の理解を妨げる日本の医療界だけに通じる専門用語や概念にはその都度、解説を加える必要があった。
こうしたプロセスを経て、外からの大局的な見地で日本の医療政策をながめているので、最初から日本語で書かれた場合と比べて、一般の読者にはかえって理解しやすくなっていると思われる。
なお、専門家向けのより細かい解説が必要と思われた場合には印で表示し、各段落の終りに記載した。
医療政策は国民生活にとって重大な問題であるにもかかわらず、日本の医療制度のメカニズムを分かりやすく整理した本はこれまであまり存在しなかった。
おりしも公的介護保険の国の試案に対する期待と不安、および「薬害エイズ」問題に対する国民の怒りが象徴するように、これまでの日本の医療政策のあり方が厳しく問われている。
これらの問題について具体的に述べるのは別稿に譲るとして、本書の目的はその背景となっている医療制度の本質をできるだけ多くの方々に理解していただくことであり、こうした観点から新書という形で出版することにした。
さて、この本では日本の医療制度を紹介する際に、通常とは異なったアプローチを用いる。
とかく無味乾燥になりがちな統計、制度の詳細な紹介、あるいは医療経済学の仮説の立証などを最小限に止め、できるだけ制度の本貿部分を明らかにするように努力した。
そこで、医療をめぐる広い意味での政治の動きや歴史的背景を踏まえて述べてゆくが、医療政策の基底には必ず財源の問題があるので、本書では医療費の問題を軸に分析する。
まず第一章では、医療政策を考えるうえでの基本的な枠組みを提示し、だれが、どのような場面において、何を巡って、衝突してきたかを説明する。
その中で、一九八〇年代になって医療費の抑制を実現した政策的背景を分析する。
第二章は日本の医師や医療機関がどのようにして現在の姿になったかを説明した後、医療機関を六つのタイプに分け、それぞれについて具体的に描写する。
第三章は医療保険制度について、保険の原理を簡単に解説した後、日本ではどのようにして医療における平等が確保されるようになったかを述べる。
第四章はマクロ的な観点から、医療サービスの公定料金である診療報酬の改定を巡る政治交渉が、医療費全体を抑制する上でどのような役割を果たしてきたかを分析する。
第五章ではミクロレベルにおいて診療報酬体系や保険に請求した医療内容の審査によって医療サービスの提供がいかに制約されてきたかを解析する。
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